鬼滅の刃SS――キメツ学園の非日常 その1

 

 ここはキメツ学園。

 

 進学校でもなければ、不良の学校でもない。

 

 いたって普通の学校である。

 

 それにもかかわらず……この学校には、問題児がよく集まる。

 

「おい紋逸!! 教室まで俺と競争だ!!」

「しねえよ! 俺は風紀委員で服装チェックしないといけないの! てかお前は俺の名前をまた間違えるし、服も前を閉じろよ!」

「うるせえ! 先に行くからな! ガハハハ!」

「あっ、おいこら待て! ったく、しょうがない奴だ……あとあいつ、また弁当しか持ってきてなかったな」

 

 風紀委員である我妻善逸は、またあいつは怒られるだろうなぁ、と思いながらため息をつく。

 

 善逸の忠告を無視して昇降口に「猪突猛進!」とか叫びながら走っていた者は、嘴平伊之助。

 

 伊之助は猪に育てられたということで、世間を一時賑わせた男だ。

 

 猪に育てれたからなのか、とても野生児で、学校にはいつも弁当しか持ってこない。

 

 授業を受ける気が毛頭ないのだろう。

 

 シャツも前のボタンを一つもつけず、肌着も来ていないので素肌が丸見えだ。

 

 猪に育てられて鍛えられたのか、とても美しい肉体美が晒されている。

 

 顔もなぜか良く、美少年顔で女性生徒から人気がある。

 

 それが善逸としては、伊之助に不満を持っている最大の理由であった。

 

 続いて服装チェックをしている善逸の元に来たのは、またもや違反をしている生徒。

 

「あっ、炭次郎。おはよう」

「おはよう、善逸。いつも仕事お疲れ様」

「うん、だけど炭次郎、俺の仕事は本来、お前のピアスも取り締まらなくちゃいけないんだよな」

 

 竃門炭次郎。

 

 パン屋の息子で、明るく、とても礼儀正しいのだが、校則違反であるピアスをいつもつけて登校している。

 

「すまん、これは父さんの形見で……」

「ああ、はいはい、わかってるよ。だから外したくないんだろ。いいよ、行けよ」

 

 善逸は耳が良く、人の体内の音なども聞き取れる。

 

 それで嘘かどうかわかるのだが、炭次郎の音は全く嘘などついていない。

 

 だから本当にピアスは、父親の形見なのだろう。

 

「ありがとう、善逸!」

 

 炭次郎は人に好かれる笑顔でそうお礼を言い、教室に向かった。

 

「怒られるのは俺なんだよな……まあいいか」

 

 その後も、善逸の毎朝嫌々やっている服装チェックは続く。

 

 しかし、嫌々やりながらも、これだけは嬉しいというものがある。

 

 それは……。

 

「あっ! 禰豆子ちゃぁぁん! 今日も可愛いなぁ……!」

 

 こちらに歩いてくる、竈門炭次郎の妹である、竈門禰豆子。

 

 いつもなぜかフランスパンをくわえて登校してくる。

 

 黒のセーラー服がとても似合っていて可愛い。

 

 善逸の個人的な感想では、キメツ学園の三大美女に匹敵する可愛さだと思っている。

 

「カナヲちゃん、それにしのぶ先輩も……! はぁ、目の保養だぁ……!」

 

 服装チェックという大義名分があるため、女の子をいくら眺めていても怒られない。

 

 善逸はこれが、風紀委員としての唯一の楽しみであった。

 

 栗花落カナヲは、華道部でとても穏やかな性格をしている。

 

 運動神経が抜群で、よく体育系の部活にスカウト、もしくは助っ人をいつも頼まれていた。

 

 実際は華道部なのだが、どちらも両立するのは大変そうだ。

 

 胡蝶しのぶは薬学研究部、フェンシング部と二つ掛け持ちをしていて、文武両道。

 

 フェンシング部では、大会優勝経験もあるほどだ。

 

 そして彼女ら二人こそ、現在のキメツ学園の三大美少女。

 

 姉妹で三代美少女に名を連ねている。

 

 特にしのぶは芸能事務所からのスカウトを何度も蹴っているらしく、毎年のミスキメツに必ず名前があがる。

 

「善逸君、おはようございます」

「お、おはようございます! しのぶ先輩!」

「風紀委員のお仕事、お疲れ様です」

「い、いえ、そんな……!!」

「頑張ってくださいね、善逸君。一番応援してますよ」

 

「ハイッ!! 頑張りますっ!!」

 

 しのぶは花を咲かせたように微笑み、昇降口に向かった。

 

 善逸は三大美女の一人に数えられるしのぶからそんなことを言われ、顔を真っ赤にしながらやる気が最高潮だった。

 

「……しのぶ姉さん、あんまりその「一番応援してる」って何度も使わない方が……」

 

「いいのよ、カナヲ。これでまた風紀委員顧問の富岡先生に、借りが出来るから」

 

 耳が良い善逸だったが、この会話を聞き逃せたのは運が良かった。

 

 善逸のやる気はマックスになり、そのまま朝の服装チェックを続ける。

 

 そしてもう登校時間ギリギリで、そろそろ善逸も教室に向かおうとした時……バイクの音が善逸の耳に聞こえてきた。

 

「ひいぃぃ、来た……! あの不良兄妹が……!」

 

 善逸は怯えて逃げるかどうか迷っていたが、相手はバイクなのですぐに校門前まで来てしまった。

 

「ううぅぅん、間に合ったなぁあ。梅が朝の準備遅れるから、ギリギリだっただろォ」

「遅れてないわよっ! お兄ちゃんが一回、部屋にバイクのキーを忘れたからギリギリだったの!」

「お前が急かすから、荷物を持てなかっただけだろォ……」

 

 バイクに二人乗りで登校してきたのは、学園随一の不良、謝花兄妹だった。

 

 兄の謝花妓夫太郎はとても執念深く、自分がやられた屈辱を三倍以上に返さないと気が済まないような性格である。

 

 そして妹の謝花梅も問題児で、二人はよく問題を起こす。

 

 正義感が強い炭次郎と、よく衝突をしている。

 

 だが妹の梅はとても容姿が良く、梅も学園三大美女の一人であった。

 

「あ、あの、校則で、バイクで登校することは違反って……」

「ああぁぁ?」

「何よ、私たちに何か文句でもあるの!?」

「い、いや、その……なんでもないです」

 

 注意をしないといけない立場の善逸だが、怖いものは怖い。

 

 特に注意できず、二人はそこら辺にバイクを停めて学園に入っていった。

 

「はぁ、怖すぎ……あっ、やばっ、俺も早く教室に行かない!」

 

 善逸は校門の門を閉めて、自分の教室へと急いで向かった。

 

「あまね、今日の天気はどうだい?」

 

 学園の一番日が当たる部屋で、窓に背を向けて仕事をしていた学園長の産屋敷輝哉が穏やかな笑顔を浮かべる。

 

「見渡す限りの晴天です、あなた」

 

 妻であり秘書でもある、あまねは隣でそう答えた。

 

「そうだね。背中に感じる陽の光が、とても暖かいよ。電気をつけなくても、この部屋いっぱいに光が当たるだろうね」

「ダメですよ、あなた。目が悪くなってしまいます」

「ふふっ、そうだね。学園にいる子供達の元気な姿がよく見えなくなってしまったら、悲しいからね。電気を消すのはやめておこうか」

 

 キメツ学園の日常でもある非日常は、終わらない――。

 

 


 

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