前作はこちらです。
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胡蝶カナエ、冨岡義勇が、太陽を克服した鬼の竈門炭治郎と遭遇してから、数日が経った。
その間、胡蝶カナエはお館様に連絡を取り、すぐに柱合会議が開かれることとなった。
カナエと義勇だけが炭治郎のことを知っているが、他の柱には伝えないようにとお館様は言った。
『彼が、どういう人間か。柱のみんなが直接見て、判断して欲しいからね』
カナエと義勇が受け取った手紙には、こう書かれていた。
しかしカナエは、その前に妹のしのぶにだけは炭治郎のことを話してしまっていた。
それをお館様にお伝えしようと思ったのだが、カナエが貰った手紙の最後に。
『カナエ、この手紙が届く前までに喋った人にも、このことは伝えておいてね』
と書かれていたので、やはりお館様はなんでもお見通しのようだ。
そして、そのしのぶは……。
「絶対に!! 反対だわ!!」
「えー、しのぶー……」
姉のカナエが、鬼と友達になったというのに断固反対していた。
「人を喰わない鬼だとしても反対よ! そもそも、本当に人を喰わないのかもわからないじゃない!」
「本当に喰わないわよ。冨岡くんと一緒にいたから、知ってると思うわ」
「冨岡さんなんてどうでもいいわ!」
その場に義勇がいたのなら、「心外!」とでも言うように目を見開いていただろう。
「炭治郎くんはまだ13歳で、可愛いのよ? それにすごい強いし!」
「そこ! 鬼になったばかりで人も喰ってないのに、なんで柱の姉さんと冨岡さんにおにごっこで勝てるのよ!」
しのぶの一番の疑問、不審に思う点はそこであった。
通常鬼は、人を喰らうほど力を増していく。
柱であるカナエと義勇に勝てる鬼など、下弦の月どころではない。
今まで100年間討伐されていない、上弦でないとそのような強さは持っていないだろう。
それなのに、数日前に鬼になったばかり?
人を喰わない?
太陽を克服した?
そんな鬼、本当にいるのであれば鬼殺隊の最大の脅威でしかない。
「……姉さんと冨岡さんが、血鬼術にかかったってことはないの?」
「うーん、可能性としては非常に低いと思うけど」
まだ血鬼術で、幻覚を見せられたと言う方が納得出来る。
「今日、炭治郎くんがこの屋敷に来るから」
「えっ!? き、聞いてないわ、姉さん!」
「あら、言ってなかったかしら? じゃあ今言ったわ」
「姉さん……!」
ニコニコしながらそんなことを言うので、怒る気も失せてしまう。
「というかなんで今日来るのよ。柱合会議は明日じゃないの?」
「前日に蝶屋敷に来た方がすぐにお館様のお屋敷に行けるじゃない? それに、しのぶとも炭治郎くんと仲良くなって欲しいし!」
「私は鬼と仲良くならないわよ!」
「しのぶ、怒ってばかりじゃダメよ。私はしのぶの笑った顔が好きなんだから!」
「誰が怒らせてるのよ、誰が……」
何を言っても聞かない姉なので、もう諦めるしかない。
炭治郎という鬼が来るみたいだが、少しでもおかしな行動をしたら……。
(すぐに毒を打ち込んでやる……!)
蝶屋敷ではあまり帯刀していたくはないが、しょうがない。
自分の身を、そして蝶屋敷で働く皆を守るためだ。
夜になり、炭治郎と約束した場所があるので、カナエが一人で蝶屋敷を出てその場所へと向かう。
「うーん、しのぶも炭治郎くんと仲良くなって欲しいのに……まあ炭治郎くんは良い子だし、すぐ仲良くなれるわよね」
そんなことを思いながら、夜の道を歩いていく。
一応見回りも兼ねて、約束した場所へと行くつもり――だったが。
「こんばんは、素敵なお嬢さん。今夜は月が綺麗だねー」
月が照らす小道の先に……女の身体の一部を喰らいながら歩いて来る、男の姿があった。
その者の目には――『上弦』『弐』と刻まれていた。
◇ ◇ ◇
「まったく、姉さんったら……」
しのぶは今日、見回りをせずに蝶屋敷で患者の世話や、薬の調合をしながら過ごすことになっていた。
任務や見回りが入っていなくても、蝶屋敷ではやることが多い。
特にしのぶは蝶屋敷での仕事の他に、自身が使う毒を研究しないといけないのだ。
血を吐くような努力を重ね続け、ようやく鬼の頸が切れなくても殺せるようになった。
最近、しのぶは一人で下弦の鬼を殺した。
つまりそれだけ強い鬼にも、しのぶが作った毒は効くのだ。
だがそれでも、しのぶは毒の研究をやめない。
憎き鬼を、全て滅するまで。
(その鬼が……今からこの蝶屋敷に来るのよね……)
カナエと義勇が会ったという、人を喰わない鬼。
今までそんな鬼、会ったことがない。
しかも柱のカナエや義勇よりも強いらしい。
カナエにも言ったが、まだ血鬼術に惑わされていると言われた方が納得出来る。
そんなことを考えながら、患者の世話を終えて研究室に行こうとした時……。
「……ん? 鎹鴉?」
蝶屋敷の上空に、鎹鴉が飛んで来るのが見えた。
(あれ、あの鴉……たしか、姉さんの……)
「カァー! 胡蝶カナエ! 上弦ノ弐ト戦闘中! スグ向カエー!」
それを聞いた瞬間、しのぶはいつも患者に言うことを忘れ、蝶屋敷の廊下を駆け抜けた。
「姉さん……!」
すでにしのぶも、柱に匹敵するほどの実力は持っている。
下弦の鬼を殺し、鬼を50体以上も殺していた。
だが柱という地位を欲しているわけではない。
今、柱は欠員がいないし、なれないなら別に構わない。
むしろ柱になれない方が、欠員が出ないということでいいのだ。
しのぶが柱になるときは、柱が年齢などの理由で引退するか……死ぬかしかないのだから。
(姉さん、やめてよ……! 私、姉さんの代わりに柱になるなんて、絶対に……!)
嫌な想像をしてしまう。
下弦をも殺せる柱が死ぬときなど、限られたことでしかない。
ほとんどが……上弦と遭遇し、殺されることである。
しかも今カナエが遭遇した相手は、上弦の弐。
鬼舞辻無惨を除いて、鬼の中で二番目に強いとされる鬼なのだ。
全力で走った時間は10分ほどだろうか。
いつもなら息一つ切れないが、今はなぜか呼吸が荒くなってしまっている。
(姉さん、無事でいて……!)
そう思いながら鎹鴉から聞いた場所へ着くと、そこには――。
――日の光があった。
◇ ◇ ◇
「はぁ、はぁ……!!」
呼吸が、とてもしづらい。
相手が氷の血鬼術を使ってから、しばらく戦っていたら……攻撃を喰らってないにも関わらず、血を吐き出した。
「あはは、俺の血鬼術を吸っちゃったんだね。可哀想に、今楽にしてあげるからね」
朗らかに笑いながら、近づいてくる上弦の弐・童磨。
対の鋭い扇を持っており、不覚にもお腹を斬られてしまい、もう思ったようには動けないだろう。
「大丈夫だよ、もう怖がらなくていいから。俺が救ってあげる」
そう言いながら近づいてくるが、カナエはもう何も出来ない。
自分はここで死ぬ。
この鬼は強すぎる。
呼吸を使う鬼殺隊士にとって、この鬼の血鬼術は天敵である。
「じゃあね。俺の中で、ゆっくり休むといいよ」
童磨がそう言って、カナエを抱きかかえて取り込もうと――した瞬間。
「っ!!」
童磨は凄まじい反射速度で攻撃を察知し、それを避けた。
それは、ただの拳だった。
鬼ならともかく、人間の拳。
武を習っている人間でもない、ただの拳の突き出しにもかかわらず……童磨は避けた。
避けていなければ、確実に頭部を破壊されていただろう。
「……誰だい? 君は」
突如現れた男は、まだ少年とも言える歳である。
いや……もうその者は、人間ではなかった。
「なんで鬼なのに、俺の邪魔をするのかな?」
「……」
「もしかして、君がこの子を狙ってたの? ダメだよ、俺がちゃんと救ってあげるんだから」
楽しそうに話す童磨を他所に、その少年のような鬼はカナエが落とした日輪刀を拾った。
そして、強く、強く握る。
「お前は、人ではないみたいだな」
「だって、鬼だからね」
何を当然のことを、というように返す童磨。
「違う。俺は鬼に会ったことがあるが、その鬼でも感情の匂いは人間のようにあった。だけど、お前からは何もしない」
「……感情の、匂い? 何言ってるのかな?」
「お前はいつから感情がないんだ? 人間の時から? それとも鬼になってからか?」
初対面で何を根拠に言っているのかわからない。
しかしなぜか目の前の少年は、確信を持って言っている。
童磨の作られた笑みが、徐々に冷えて、冷酷な表情となっていく。
「感情がないから、お前は人を殺すときもそうやって、何も思わないのか」
「君、うるさいな……黙れよ」
――血鬼術・寒烈の白姫
童磨の背後に氷の巫女が2体出現した。
その巫女が息を吐き出すように、口から氷を吐き出す。
広範囲を凍結させる技で、防ぐことは困難だろう。
逃げないと死ぬが、少年の背後には虫の息の女がいる。
確実に当たる――そう思った、だが。
「ヒノカミ神楽――灼骨炎陽」
少年が初めて持ったであろう日輪刀を、大きく、太陽を描くかのようにぐるりと振るう。
その瞬間、童磨が放った冷気が全て霧散した。
まるで太陽に当たって、氷が溶けるかのように。
「えっ……?」
そんな防がれ方をしたのは初めてだったので、童磨は一瞬固まってしまう。
そして少年を見ると、その姿が、何かを思い出させる。
(いや、俺はこの少年を知らない。この記憶は……あの方の……?)
髪型も、その額にある痣も。
先程まで女の刀で淡い桃色をしていたはずが、今は炎に包まれたかのように真っ赤に染まっている。
その赫い日輪刀も。
無惨様が数百年前に見た、あの剣士の姿を思い出させる。
「ヒノカミ神楽――」
(っ! 来る……!)
童磨はすぐに迎撃態勢に入る。
どれだけ強くても、童磨の血鬼術は呼吸を使う者に対して、有利で……。
「――烈日紅鏡」
「……あれ?」
童磨の視界が、逆転した。
天と地が逆転し、地面へ近づいている光景が映る。
察しが良い童磨は、もうすでに理解した。
(あっ……俺、頸斬られたんだ)
地面に頭が転がり、身体が倒れていくのが視界に入った。
(えー、なんか呆気ない。死ぬときはもっと、上弦の弐らしく、柱の強い奴らに囲まれて死ぬと思ってたんだけど、まさかよくわからない少年に斬られるなんて。しかも同族の鬼だし)
自分の身体が灰になるように消えて行き、残った頭が頸の辺りから消えていくのがわかる。
しかし、何も怖くない。何も感じない。
(あーあ、やっぱりか……まあ特にやり残したことはないし、いいか。それに……可愛い女の子も見れたしね)
最期に目にした光景は、自分が救おうとした女を抱き上げる、これまた可憐な少女だった。
◇ ◇ ◇
しのぶはその場に着くと、まず目についたのは夜を照らすような炎だった。
真っ赤な日輪刀を持った……鬼。
一見では鬼とわからないが、しのぶほどの実力者ならその気配でわかる。
しかし、鬼である者が日輪刀を持ち、そして背後には姉であるカナエがいる。
明らかに、目の前の扇を持った鬼から、姉さんを守っていた。
なぜだか全くわからないが、その鬼が姉が話していた竈門炭治郎ということが理解できた。
赤が混じった黒髪を後ろで纏めて、横顔からは端正な顔立ちが見える。
相手の軽薄そうな笑みを浮かべた鬼を貫くように捉えている瞳は、鬼特有の縦長の瞳孔をしていたが、鬼のような薄っぺらい瞳はしていない。
その姿を見るだけで、今までの鬼とは違うと断定出来た。
そして――炭治郎が、技を繰り出した。
(っ! 見えな、かった……!)
いつの間にか軽薄そうな鬼のすぐ側に立っていて、その鬼の頸が斬れていた。
上弦の弐を、単独討伐――。
それをしのぶは目の当たりにして、固まってしまっていた。
しかしすぐに姉の苦しそうに咳き込む声が聞こえて、ハッとして姉に駆け寄った。
――1000年もの間、鬼殺隊が悲願にしている鬼舞辻無惨の討伐。
その第一歩を、しのぶは目撃したのだった。
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