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ラノベ作家のshiryuです。鬼滅の刃のSSです。炭治郎が鬼化しております。胡蝶カナエが生存しております。炭治郎がチート…

 


 

 

炭治郎が参加した柱合会議から数日間、炭治郎は蝶屋敷でお世話になった。

 

一度家に帰り、炭治郎の家族は全員蝶屋敷に連れて来たのだ。

 

お館様から、

 

『あの山奥の家では、何かと連絡を取るのにも不自由だと思う。炭治郎の家族が住めるような屋敷を用意するから、それまで蝶屋敷に住んでもらえないかな?』

 

と言われて、炭治郎は家族を説得して引越しをすることにした。

 

代々炭焼きの家系で、父親の炭十郎との思い出もあの家にはあったが、家族の命は代えられない。

 

炭治郎が太陽を克服している、と鬼舞辻無惨にバレてしまったら、一番危険なのは炭治郎の家族だろう。

その時にあの山奥では、鬼殺隊が隊士を派遣するのも時間と労力がかかる。

 

鬼舞辻無惨だけじゃなく、上弦や下弦を集められて一気にあの山奥の家に来られたら堪らない。

炭治郎だけでは家族を守るのも限度がある。

 

仕方なくあの家から離れ、蝶屋敷に家族全員でしばらく住むことになった。

 

引っ越しは大きな荷物なども多少あったが、鬼殺隊の隠が手伝ってくれて円滑に進んだ。

 

その際、隠の者達が炭治郎の力に驚愕していたが。

 

「荷車に家族全員乗せて、他にもいろんな重い家具とか乗ってたのに、なんで何も持ってない隠の俺達よりも速く走れるのか……」

「しかも息一つ乱してなかったぜ。13歳って聞いてたけど、やっぱりいきなり柱に推薦されるものは違うな……」

 

隠や他の鬼殺隊の隊士達にも、炭治郎のことは知れ渡っている。

しかしそれは、鬼であるということを除いて、である。

 

炭治郎の鬼っぽいところは鋭く尖った犬歯と、縦に開かれた瞳孔だけ。

だが炭治郎はそれをすぐに擬態することに成功した。

 

柱合会議の時にはすでに擬態出来るようになっていたが、あの時はわかりやすくしていただけだ。

 

今の炭治郎の姿は、普通の人間と全く変わらない。

鬼の気配も気薄で、柱ほどの強者じゃないと気づかない程度。

 

隊士や隠に炭治郎の正体を言えば、確実に混乱を招く。

なので秘密にしているのだ。

 

炭治郎の正体を知らない隊士や隠は、「ただの気持ちいい少年が、柱と並ぶ強者である」ということを知っているだけだ。

 

そして無事に、竈門家の引越しは終わった。

 

竈門家が蝶屋敷で暮らしてから数日後。

炭治郎が、お館様に呼び出された。

 

お館様の屋敷に行き、お館様と対面して話し合う。

 

「炭治郎、蝶屋敷の暮らしはどうかな?」

「とても良くさせてもらってます。俺の兄妹もいろんな人と関われて楽しそうです」

 

炭治郎の母親の竈門葵枝と、一個下の妹の竈門禰豆子は蝶屋敷の看護の手伝いをしている。

弟の竹雄もまだ幼いながら男手として、多少の手伝いをしていた。

 

茂や花子も手伝いを少ししているが、まだ幼い六太の面倒を見ないといけない。

二人は六太の面倒を見ることが多い。

 

「それは良かった。胡蝶カナエやしのぶも、君達が来たお陰で仕事が捗ると言っていたよ。私の方から礼を言うよ」

 

上弦の弐と遭遇した胡蝶カナエは、後遺症もなく復帰することが出来た。

これからも柱として、鬼殺隊を支えていくことになるだろう。

 

「いえ、良くさせてもらってるので、手伝うのは当然です」

「そうか、竈門家の家族は本当に良い人達で、気持ちが良いよ」

 

仏のような笑みを浮かべたまま、お館様は続ける。

 

「さて、そろそろ本題に入ろうか。まず一つ目は、君達家族の屋敷の準備が出来た。明日にでも引っ越す事が出来るよ。場所は蝶屋敷から歩いて十分ほどだ」

「ありがとうございます」

 

竈門家が住む屋敷を用意するにあたって、一番に考えるのは場所であった。

これは竈門家の要望もあって、蝶屋敷のすぐそばになった。

 

竈門家を鬼殺隊で匿うことになったが、何も仕事をしないで匿われても困惑してしまう。

せめて蝶屋敷で働かせてもらう、と竈門家からの要望があった。

 

蝶屋敷には花柱の胡蝶カナエ、柱の実力に近い胡蝶しのぶもいる。

匿うには超屋敷の側は打って付けであった。

 

「それで、もう一つ……そろそろ、炭治郎の返事を聞かせてもらいたい」

「……」

 

返事とは、もちろん鬼殺隊に入って、柱になるのかということだ。

 

今現在、柱は8人。

岩柱、風柱、水柱、炎柱、音柱、恋柱、蛇柱、花柱。

 

柱の定員は9名。

それは「柱」という漢字が9画であるため。

 

つまり1名、欠員しているということだ。

 

今現在、柱に最も実力が近いのは胡蝶しのぶであった。

 

しかしお館様は、炭治郎が柱について欲しいと考えていた。

 

「柱になるための条件として、鬼を50体以上倒すこと。それか、十二鬼月を倒すこと。炭治郎は鬼殺隊ではないけど、すでに十二鬼月を倒している。しかも、上弦の弐を」

 

今現在、柱の中で十二鬼月を倒したことない者はいない。

全員が十二鬼月を倒せる実力を持っている。

 

しかし、誰も上弦を倒してはいない。

全員下限の鬼を倒し、柱の地位に至っている。

 

「君は柱になれるほどの実力をすでに持っている。そして、柱の中で君に勝てる者はいないかもしれない」

「……」

「どうかな?」

 

お館様はその言葉で会話を区切る。

あとは炭治郎の答えを待つだけだ。

 

炭治郎も正座をしながら、少し目を伏せる。

そして一度ゆっくり瞬きをしてから、お館様と目を合わせる。

 

「この数日、蝶屋敷で手伝いをしていて、鬼のことを知りました。鬼の恐ろしさ、鬼の醜さ……鬼の悲しさを」

「……鬼の、悲しさ?」

「はい。鬼は悲しい生き物です。鬼舞辻無惨に鬼にされ、理性を失って人を襲う。元は同じ、人間だったのにもかかわらず」

 

炭治郎は自身が鬼という自覚は、ほとんどない。

柱合会議の時に、柱の皆に敵意や殺意を当てられて、初めて自分が鬼という化け物であると認識した。

 

そしてこの数日で、鬼という化け物がどれほど悲しい生き物なのかを知った。

 

「俺が出会った鬼舞辻無惨は、何も感情を持たずに人を殺せるような生き物でした。あんな者が、こんなに悲しい連鎖を作り出しているのであれば……俺は、悲しみの連鎖を断ち切る刃を振るう。俺が、鬼舞辻無惨を倒します」

 

真っ直ぐ、燃え盛るような瞳で、お館様の目を射抜くように見つめる炭治郎。

 

「お館様、鬼殺隊に入ります。柱に、なります」

「……ありがとう、炭治郎」

 

お館様は……いや、産屋敷耀哉は、この瞬間、確信した。

 

(鬼舞辻無惨と鬼殺隊の戦いが、千年……私の代で、この戦いは終わるだろう)

 

太陽を克服した鬼、竈門炭治郎。

炭治郎が現れたことにより、この戦いは終幕を迎える――。

 

産屋敷耀哉の未来予知とも言えるような、神がかった勘がそう伝えてくれた。

 

「炭治郎――君を、日柱に任命する」

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

べべん。

琵琶の音が、鳴った。

 

上弦の参である猗窩座は、いきなり目の前の光景が変わったことに驚く。

普通の者であればもちろん驚くのだが、猗窩座が驚いたのは目の前の光景が変わって移動したことではない。

それをやった者、それを指示したお方を知っているのだから。

 

呼び出されたということはわかったが、驚いた理由はこの呼び出しが……上弦が欠けたということを示唆しているからだ。

 

(100年以上変わらなかった上弦が欠けるとは……)

 

誰がやられたのか?

そして誰にやられたのか?

 

誰にやられた、というのは考えるのは難しくない。

十中八九、鬼殺隊の柱だろう。

 

それ以外考えられない。

だが上弦は柱一人ぐらいは、普通に殺せるぐらいの実力を持つ。

 

だから死んだ上弦は、柱が相手に二人ぐらいいたのかもしれない。

 

そして、誰が死んだのか。

呼び出された鬼を見渡す。

 

上弦の陸は……いる。

一番下だから、一番死んでる可能性があったのだが。

兄の方もいつもは妹の身体の中にいるが、今は外に出ている。

 

上弦の伍、それに上弦の肆もいる。

 

(っ! まさか、上弦の弐か壱が死んだということか……!?)

 

自分よりも下の席位の者が全員生存しているということは、そういうことだろう。

 

上弦の……壱がいた。

一人で正座をして座っている。

 

(つまり……あの男が、死んだというのか……!)

 

上弦の弐、童磨。

いけ好かない奴で、自分と全く馬が合わなかった。

 

女の肉が好きで、自分は全く喰わないのでよく女の肉を勧めてきた。

控え目に言って、大嫌いであった。

 

しかし上弦の弐という席位につくほどの実力者。

かつては自分がその座にいたが、それを引き摺り下ろして上弦の弐になった男。

 

そんな男がいないということは――。

 

「無惨様の御見えです」

 

琵琶の女の言葉に、上弦の鬼達は一瞬にして膝をついて頭を垂れた。

 

猗窩座も考え事をやめ、すぐさま無惨様の気配がする方へ頭を垂れる。

 

「童磨が死んだ。上弦の月が欠けた」

 

不機嫌そうな声を全く隠そうとしない、無惨様の声が無限城に響く。

 

予想していたことだが、まさか本当に童磨が死ぬとは。

やったのは柱か? あいつは何人がかりで殺されたのだ?

 

「111年振りに上弦が殺されて、私は不快の絶頂だ」

 

無惨様が好きなのは、不変。

 

肉体の変化、状況の変化、感情の変化。

その全てがほとんどの場合、劣化だと考えておられる。

 

変化を嫌う無惨様にとって、111年も不変だったものが変化するのは、腑が煮え返るほどだろう。

 

「お前らに、童磨を殺した剣士……いや、鬼を共有する」

 

無惨様がそう言った瞬間、猗窩座や他の上弦の頭の中に映像が流れる。

 

おそらくこれは、童磨が最期に見た光景、つまり童磨を殺した者だろう。

 

少年というような風貌に、赤みがかった黒髪を後ろで一纏めにしている。

そして特徴的な形の、額の痣。

 

「――っ!! 縁壱……っ!!」

 

今まで上弦の誰もが言葉を発しなかったが、最初に発したのは……上弦の壱、黒死牟であった。

いつもどんな状況でも取り乱すことなどないのだが、今はなぜか正座を崩すほど動揺しているのが見える。

 

(よりいち……? 人の名か? 今見た人間、いや、鬼の名前か? そもそも今の鬼は、なぜ鬼である童磨を殺した? しかも一人で、上弦の弐である童磨を一瞬にして……)

 

疑問は尽きない。

黒死牟のことも、童磨を圧倒して殺した鬼のことも。

 

「この鬼は腹立たしいことに、私の呪いを解いている。だから、この鬼を殺せ。こいつを殺せば、上弦の弐の席位を渡してやろう」

 

その言葉を最後に、べべんという琵琶の音が響いて、上弦の鬼どもは元の場所に戻された。

 

 

◇  ◇  ◇

 

 

「……あの人間、鬼になったのか」

 

無惨は一人になってから、腹立たしいようにそう呟いた。

 

普通鬼になったのであれば、無惨はそれを確実に感知することができる。

自分が意図せずに鬼にしたとしても、絶対に。

 

しかし自分の頸を斬ったあの人間が鬼になったなど、童磨が殺されるまで知らなかった。

なぜあいつはこちらが感知すら出来ない速さで、呪いを解いているのか。

 

(これも……! あの呼吸のせいなのか……!)

 

日の呼吸。

忌々しい鬼殺隊が使う呼吸の全てが、日の呼吸から派生したもの。

 

あの男……継国縁壱が使っていた日の呼吸に比べれば、今の鬼殺隊の剣士の呼吸など児戯に等しい。

アレは別格、化け物だ。

 

しかし……鬼になった少年の日の呼吸は、あの化け物に匹敵し得る可能性がある。

まだ身体も成長しきっていないにもかかわらず、無惨が手も足も出ない強さ。

 

人間だったらあの化け物のように、そいつが死ぬまでずっと表に出なければ良いだけの話だった。

しかし奴は、鬼になっている。なってしまった。

 

確実に殺さないと、自分の頸を斬り得る存在になる可能性が高い。

 

(クソ……! 不快だ、不愉快だ……!!)

 

 

――鬼舞辻無惨は、知らない。

 

上弦の弐が倒された後、少年の鬼、炭治郎は陽の光に当たっていたことを。

 

――炭治郎が、ずっと探し求めていた、太陽を克服した鬼だということを。

 

 

 


 

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