前作はこちらです。
その日、柱の者達に鎹鴉から衝撃の情報が伝えられた。
『上弦の弐――討伐』
100年以上も討伐されてこなかった、上弦の鬼。
それを討伐しただけでも凄いが、まさかの序列が弐。
つまり鬼舞辻無惨を除いて、鬼の中で2番目に強い鬼ということだ。
混乱を防ぐために、柱につか伝えられていない情報。
もちろんそれほどの鬼を討伐したというのは、とても喜ばしい。
だが……。
「誰が、討伐したのだ?」
見回りを終えて家に帰る途中、煉獄杏寿郎は一人で呟いた。
上弦の弐という強者を、誰が討伐したのか。
それが情報として回ってこない。
前にお館様が、
『上弦は下弦とは強さの格が違う。おそらく、柱が2人か3人ほどいて、互角に戦えるぐらい』
と言っていた。
今までも柱が何人か、上弦に殺されていた。
下弦を簡単に殺す柱が、上弦を殺すことはここ100年出来なかったのだ。
だからこそ、上弦の強さは格が違うと知っていた。
「怪我人は出たのか?」
報告をしに来た鎹鴉に、杏寿郎はそう問いかけた。
「カァー! 花柱、負傷! 命ニ別状ナシ!」
「そうか! 死んでいないなら良かった!」
花柱、胡蝶カナエ。
女性ながら柱になっている実力者。
つまり、胡蝶カナエと柱の誰かもう1人、それか2人が協力して倒したということ。
「しかし、そうなると胡蝶カナエだけが負傷したのはわからんな……怪我人は他にいないのか?」
「カァー! イナイ!」
いくら柱が2人や3人いたとしても、胡蝶カナエだけが傷を負って他2人は無傷ということは不思議である。
「よもや……こう考えても答えは出ない! 明日の柱合会議で聞けばいいか!」
1人でそう納得して、明日の柱合会議に臨む杏寿郎だった。
そして、翌日――。
雲一つない快晴で、柱の皆が集まっていた。
しかしその中に、1人いなくて、1人柱ではない者がいた。
「胡蝶カナエの妹、胡蝶しのぶ!」
「なんか言い方が変ですが、はい。何か用でしょうか、煉獄さん」
杏寿郎の呼び方に眉を顰めるしのぶ。
姉のいつも笑顔な表情とは似つかないが、それでも顔立ちはとても似ている。
「胡蝶カナエは大丈夫か? 怪我をしたと聞いたが」
「はい、大丈夫です。特に後遺症も残らず、数日後には復帰出来るはずです」
「よもや! それは良かった!」
上弦の弐と戦い、それぐらいの怪我で済んだのであれば結構なことである。
「胡蝶しのぶが、姉と一緒に上弦の弐と戦ったのか?」
「いいえ、違います」
「ふむ、では誰だ?」
集まっている柱の者を見るが、誰も怪我はしていないようだ。
不死川実弥は少し怪我の跡が増えているが、いつも通りである。
「俺は悲鳴嶼さんが上弦と対峙したと思っていたが、違うのだろうか!?」
柱の中でも一番の実力者である、岩柱・悲鳴嶼行冥。
体格が一際大きく、手に数珠を持って鳴らしながら、涙を流す。
「ああ……私ではない。私も、昨夜聞いただけだ」
「そうか! では誰がやったのだ!?」
そう言って杏寿郎は柱の皆を見回すが、誰も自分ではないと言うように他の者を見る。
「ふむ……一体、誰が上弦の弐を討伐したのだ?」
その言葉を杏寿郎が言うと同時に、幼い声が産屋敷家の庭に響く。
「――お館様のおなりです」
◇ ◇ ◇
全員が庭に膝をつき、お館様のお言葉を待つ。
「おはよう、みんな。今日はよく来たね」
静かな、優しい声。
お館様の声を聞くだけで、柱の皆は心に暖かい何かが生まれるのを感じる。
「お館様におかれましても、御壮健で何よりです。ますますの御多幸を、切にお祈り申し上げます」
「ありがとう、杏寿郎」
煉獄杏寿郎がそう言い、お館様が今日の一番大きな議題を切り出す。
「まず、みんなには昨日、上弦の弐を討伐したという情報が入ったはずだ。聞いてるね?」
「もちろんです! 大変喜ばしいことですが、誰が討伐したかは聞いておりません! 花柱の胡蝶カナエが怪我をしたようですが、上弦の弐と戦闘したということでしょうか!?」
「その通りだよ。話を聞く限り、カナエは上弦の弐と遭遇し、数分で致命傷を負い、死にそうになったと」
「よもや!!」
柱である者でさえ、一人対峙したらものの数分でやられてしまうのか。
上弦の強さを改めて知り、皆が舌を巻く。
「では、上弦の弐は誰が倒したのでしょうか!?」
「そうだね。これから、みんなに紹介するつもりだよ」
「よもや! 1人で討伐したのでしょうか!?」
「うん。とっても強い子なんだ」
まさか上弦の弐を1人で討伐出来るような強者が、柱以外にも鬼殺隊にもいたのか。
最近の隊士の質が良くない、と言われていたが、改めなければならないかもしれない。
「その者はどこに!?」
「今から呼ぶよ。だけど、その前に……みんな、私と約束してほしい」
いつもの優しい、仏のような笑みを浮かべたお館様が、言葉を紡ぐ。
「その子は、とても優しい子で……とても強い子なんだ。だからどうか、みんなに認めて欲しいと思っている」
「お館様、一体どういう……?」
お館様は最後に「よろしくね」と念押しをするかのように言って、
「炭治郎、入っておいで」
と、後ろの襖の方に声をかけた。
そして、襖が開かれ――。
柱のほとんどが目を見開き、即座に臨戦体勢に即座に入った。
「鬼――っ!!」
誰が、そう呟いただろうか。
襖の奥にいたのは、鬼の少年であった。
いや、姿形は少年だが、実際は何十年、何百年生きているのかわからないのが、鬼である。
すぐさま攻撃を仕掛けようとしたのは、風柱である不死川実弥。
続いて蛇柱の伊黒小芭内。
常に全集中の呼吸を使っている2人だが、さらに呼吸を深め技を繰り出そうとするが……。
「落ち着いて」
お館様が立ち上がり、口元に指を当てる仕草をしたことにより身体が強制的に止まった。
それもそのはず、お館様がその鬼を後ろに庇うように立ち上がったからだ。
「お館様! そいつは鬼ですっ! 危険なので離れてください!」
柱が集まっていたにも関わらず、姿を表すまで鬼がいることに誰も気づかなかった。
なんたる不覚か。
不死川の言葉に、お館様は笑みを浮かべたまま首を横に振る。
「実弥、小芭内、落ち着いて。この子が鬼ってことは、すでに知ってるよ」
「ならば何故っ!?」
「さっきも言ったけど……この子が、炭治郎が、上弦の弐を倒したんだ」
お館様のその言葉に、先程の鬼が襖の奥から現れた時よりも、柱全員に大きな衝撃が走る。
「なっ!? 鬼が、鬼を倒した……!?」
「しのぶ、そうだね」
「……はい、そうです」
お館様がしのぶに話を振ると、柱全員がしのぶの方を見る。
そして、しのぶがその時のことを、姉のカナエに聞いた話も交えながら説明した。
柱である姉さん、胡蝶カナエが手も足も出ずにやられたということ。
敵は氷を操る鬼だったようで、全集中の呼吸を使う鬼殺隊とは相性が最悪。
トドメを刺される寸前、鬼である炭治郎がやってきた。
ただの拳で上弦の弐を退かせ、カナエが使っていた日輪刀を拾い。
――1回目振るって、上弦の弐の血鬼術を破った。
――2回目振るって、上弦の弐の頸を斬った。
「上弦の弐に対して、圧倒的な強さで、何もさせずに倒しておりました」
なんとも、信じがたいことであった。
鬼が人を守る、ということですら信じられないのに。
上弦の弐を何もさせずに倒すなど、あり得るのだろうか?
「信用しない、信用しない。鬼が人を守る? 胡蝶しのぶが鬼の血鬼術をかけられている、と言われた方がまだ信じられる」
「っ! 私はかけられていませんよ」
蛇柱の伊黒の言い分に、しのぶは少しイラつきながらも答える。
「自分だったら気づかないのは当然であろう。それに例えその鬼が上弦の弐を倒したのであれば、それだけその鬼が人を喰らい、強くなったということだ。それを拘束もせずにしている様に俺は頭痛がしてくるのだが」
確かに、伊黒の言う通りである。
上弦の弐を倒すほどの力を持っているということは、上弦の弐以上に人を殺し、喰らったということに他ならない。
例え人を守ったとしても、それは覆らない事実である……はずであった。
「炭治郎はね、人を喰っていないんだ」
またもお館様が、驚きの事実を告げた。
「よもや! お館様、それは本当ですか!?」
「そもそも炭治郎が鬼になったのは、数日前のこと。なった初日、義勇が炭治郎と遭遇した。その時にはすでに、人間としての理性があったみたいだね」
「……はい、そうです」
炭治郎が現れた時に唯一、柱の中で動じなかった義勇。
さすがに上弦の弐の討伐には、目を見開いたが。
「炭治郎は家族と暮らしているが、鬼になってからも誰も喰べていない。それは義勇と、それにカナエも確認している。今日までも鎹鴉でずっと監視していたが、人を喰う素振りすらなかった。炭治郎は、人を喰わないんだよ」
お館様から説明を受けても、未だ信じられない。
鬼が人を喰わないなんて、柱だからこそ簡単には信じられないのだ。
数え切れないほど鬼を殺してきた柱は、鬼がどれだけ狡猾で、意地汚く、最低な生き物かを知っているから。
「信じられません、お館様……! 俺が、その鬼の化けの皮を剥いでやりますよォ!」
不死川が血走る目をそのままに、刀を抜いて自分の腕を斬りつける。
(えっ、えっ……何してるの? お庭が汚れるじゃない……!)
その様を見て並んでいる柱の中で、そんなことを心の中で思っていた恋する柱がいたとかいないとか。
稀血。
普通の人の数倍、数十倍は濃い血を持っており、稀血を食べるだけで何十人も人を喰ったことになる。
風柱・不死川実弥の身体に流れる血は、稀血の中でも特別。
鬼がその血の匂いを嗅ぐだけでも、酩酊するほど濃いものである。
どんな鬼でもその血を欲し、動きが単調になり本能的になる。
この稀血の特性を生かして、不死川は鬼を狩ってきた。
「不死川、お前が日向にいてはあの鬼は襲ってこない。日陰に行かなくては」
「……お館様、失礼仕る」
伊黒の助言を聞き、不死川は一飛びで屋敷の中に入り……炭治郎の目の前に降り立つ。
「おら、喰いついてこい鬼ィ! お前の大好きな人間の血だァ!」
「……」
鬼の気配が薄かったが、やはり目の前にすると鬼の特徴を持っている、少年の鬼。
こんな鬼が、上弦の鬼を倒す?
やはり信用ならない。
不死川は猟奇的な笑みを浮かべながら、刀をその頸に穿つように準備をしていた。
(少しでも襲う素振りを見せれば、殺してやる……!)
そう思っていたの、だが……。
「……あァ?」
不死川は、疑問の声を上げた。
突如目の前で、自分が想像していたこととは違うことが起こったからだ。
その少年の鬼――炭治郎は、慈しむような涙を流した。
――――――――――――――
とても綺麗で熱く、曇りなき瞳であった。
瞳孔は鬼のように縦に開かれていたが、それでもその眼差しは人間のように、いや、人間以上の輝きを持っていた。
それに気づいたのは、柱の中では自分だけだろうか。
(よもや……柱ではないが、胡蝶しのぶはすでに気づいているようだな)
姉である胡蝶カナエを目の前で助けてもらったと言っていたので、当然のことであろう。
あれほど美しく輝きある瞳を、自分は他に知らない。
あとは……岩柱の悲鳴嶼行冥や、音柱の宇髄天元も気づいていてもおかしくはない。
冷静にあの者を見れば、普通の鬼とは全てがかけ離れているということを。
逆に、風柱の不死川や蛇柱の伊黒は、あの者に殺意を覚えすぎているから、わからないだろう。
2人があれほど殺意を持っているから、自分がこうして冷静でいられるというのもあるだろうが。
何を思って生きていれば、あれほど熱く輝く瞳を持てるのだろうか。
煉獄杏寿郎はそんなことを思いながら、ずっと少年の鬼……炭治郎の瞳を見つめていた。
その瞳が、不死川の血を流す姿を見て――瞳が揺れ、涙が溢れた。
次の話はこちらです。
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